「イルピアット宣言」

2019年9月3日ミズタニ行進曲

2019年9月3日、午前0時3分です。さっき、9月のメニュー替えが終わりました。今回のメニュー替えは試作も含め、楽しい時間でした。いつも苦労はあるのだけど、どうしてか、今回は未来がある気がします。毎月、メニューを考えながら色々なことを考えます。お客さまに理解してもえるかな、価格は適切かな、全体の印象は重くないだろうか、同じ月にもう一度来たくなるだろうか、イルピアットを好きになってくれるだろうか、食べたいものや興味のある内容を提示できているだろうか、などなど。毎月、考えます。

今月も相変わらず考えたのですが、何というか、お客さまの印象や気持ちを考えすぎなかった気がします。「イルピアットはどういうお店なのか」という純粋な問いを立てました。言い換えると、ランチをお休みしてからずっと、そんなことばかりを考えてきました。どうしたいのか、どういう提供をしたいのか、自分にできることは何なのか、このお店でできることは何なのか、自分はイタリア料理を通して何をしたいのか。せっかくお店を運営しているのです。いつだったか、井倉木材の井倉さんに「好きなものを作ればいいやないの」と言ってもらった事があります。「好きなもの」って言われて、「好き勝手とは違うんだろうな」などと考えました。「私が好きな料理」を、出す?

色々と試作しました。うどんカルボナーラもそうだし、和食みたいな調理法もそうです。日本の食習慣で身にしみ込んだ味覚と印象をどうしても欲しがりました。それを「アレンジ」と呼び、納得もできました。今でもそういう気持ちはあります。しかし「アレンジ」から生まれる料理が私は「好き」なのだろうか。どこか、付け焼き刃のような気もしています。私の身に付けた調理技術はイタリア料理です。全ての技法を理解できていませんが、書籍などからも理解を深めることがあります。勉強不足は否めませんが。

自分の調理技術はイタリア料理。ではそれを、どうやって活用してお店を流行らせるのか。「何言ってるんだ。いつも流行ってるじゃないか。」と思われる方もいるかも知れません。そんなことはないのです。私はいつも、どうやって自分のお店が流行るのかを考えます。いつも忙しい訳ではありません。そして、流行るための方法やお客さまのご利用単価を上げるためにはどうすればいいのかなども考えます。商売っ気はきちんとあるのです。皆さんが喜ぶような成果を取りにも行きました。その結果、私はいつからか、疲れてしまいました。

何に疲れたか。まさに、考えることにです。単価の高いお客さまに来て欲しいと内心で考えることや、お金持ちっぽい人や権威的な地位の理解に取り込まれたいと期待することなどに疲れました。私はそんな所を目指していないのです。しかし売り上げ目標はあります。もちろんあります。ですが、それを達成するために何かをおろそかにしてしまった気がする。そんな狭間にいました。私は、「イタリア料理をどうやって日常に利用してもらえるようになるのか」を考えていた時期を忘れてしまっていました。いまの私は一体、何に憧れているというのだろうか。新しく登場したお店の生き生きとした明るさなのか。権威的な評価サイトや書籍に取り上げられることなのか。お金持ちが興味を持つような特殊な調理に思いを馳せることなのか。お客さまの単価が総じて高額になる事なのか。どれももっともだし、どれも違う。なるほど。

私はイルピアットに人が来てくれて楽しい食事をしている時間に憧れを抱いているのです。席が満席になり、それぞれの人が楽しく食事をしている様にこそ、憧れがあります。そこに生まれるヴァイブスが欲しい。それだけでいい。

ランチは売り上げを支えるための役割がありました。ランチタイムのお客さまにも感謝する日々です。同時に、ランチタイムは非常に疲れもしました。単価が決まっている中での長時間のご利用は思いの外に疲れるのです。都合よく利用くださって構わないのですが、その気持ちはまんま、私の利用価値のような気になるものです。ですから、疲れてしまうのです。どこか、大切にされていないと感じてしまう、お店も私も。夏の暑さ予想も手伝って、いい機会なのでランチをお休みしました。10月からは消費税も上がりますから、内容と価格の変更も必要でした。本当にいい機会でした。そしてたくさん考えました。私はランチをしたいのです。もちろん、売り上げは大切ですがそれ以上に、少ない休み時間などを利用してきちんとした食事をして頂きたいと願うからです。

私はイルピアットランチを労働者のために用意したいと思っていたのです。

「労働者」とは何も、賃金を得る労働だけを指していません。専業主婦もそうです。学生もそうです。誤解のないように説明しますが、「日々に追われつつもきちんと過ごしたいと願う人」に届けたいという想いです。そうであれば、ランチタイムは必然的にタイトになると思っています。忙しい合間を縫ってご来店くださっても、きちんとした食事ができるように。なるべく早く提供する必要がある。早い時でオーダーから4分程で全てご用意してきました。それはそういう必要を勝手に私が設定してきたからです。結果としては、4分でご用意しても60分以上を要する方も見えます。この気持ちの報われなさに疲れてしまいました。

「好きなように食べさせてくれよ。」

おっしゃる通りです。ですから、次に展開するランチから私もお客さまも報われるような内容をご用意いたします。ランチタイムのお食事が早く済み、退店いただける方には「早割」をご用意します。「日曜日のBAR」店主のてっちゃんと話している中からヒントを得ました。詳細はきちんと決まってから後日にお知らせします。お時間をかけてのお食事もご利用できます。「早くランチを済ませて、午後からもうひと頑張り!」という人には全力でエールを送ります。私は本来、そうした気持ちでランチをご用意してきたのです。ですから、ランチタイムはご利用時間に応じて金額が割り引かれる仕組みとします。お酒を飲まれる場合も「酒割」を作ります。私はできるだけ、低価格のランチをご用意したいのです。早く食べ終えなくてはならない人の負担は軽減されていいと思います。

多くの人にイタリア料理を届けるために、私はここに宣言します。

「なるべく利用しやすい料金で、きちんとした調理で、頑張る人のために、大衆に向けた、分かりやすいイタリア料理店を目指します。」

権威や金欲に目がくらまないよう、私に厳しい眼差しを向けてください。イルピアットは皆さんの日常にあってこそ、初めて価値があります。ニューヨークやパースに行けて本当に良かった。派手に動いた結果、私は確実に自分に自信を得ました。同時に、キラキラした世界にも憧れを抱いてしまいました。しかし気付きました。私はキラキラが欲しい訳ではなかったのです。私が欲しかったのは「どこでも作れるぜ」という気概だけでした。そしてそれは充分に得られました。だから、欲張ったのです。「あわよくば、その先ももっとキラキラするのじゃないか」と。浅はかでした。機会をくれたニューヨークの三輪さん、パースの輝咲さん、本当に感謝しています。そして無事に、戻ってきました。いまの場所が私のあるべき場所です。

長くなりました。これからもどうぞ、イルピアットをよろしくお願いします。まだまだ諦めていません。譲る気もありません。ここからはさらに、好きなようにさせて頂きます。お許しください。